「うぇ、ぐぅ、う」
「声漏らすな。気持ちわりい」
個室に響く水音。膝は床と擦れて痛いし、息が苦しい。でも苦しいぶん、気持ちよくなってくれるなら。その様子が見たくて顔を上げると、みちかずはスマホを見ていた。手を伸ばしておれの髪を掴むと、よりいっそう奥まで突き込んでくる。喉奥がびっくりして反射的におえっと声が出る。
「萎えるっつうの」
掴んだ髪はそのままで、勢いもそのまま。射精が待ち遠しい。苦しくて終わらせたいわけじゃない。だって、おれで出せるってことはおれが好きってことだもんな。
「っうう、うーっ」
ようやくみちかずのそれとおれの口ん中が馴染んで、張り詰めていく感じがする。邪魔しない様に上手に息継ぎしたり、疲れたあごを奮い立たせる。うまくやれてる。そう思ったのに、みちかずが耳に刺さるピアスごと髪を掴み直して、引っ張られた痛みで口のなかのものを出してしまった。
「ちゃんとしゃぶることもできねえのかよ、グズ」
「ご、ごめん。ピアスがさ……」
「ピアス?」
今日、初めてみちかずとおれの目がちゃんと合った気がする。ピアスは、以前おれがねだってもらったものだ。
「お前さ、学校つけてくんなって言ったよな」
「いっ、痛い!痛いよ、ごめん、でもさ……」
みちかずは舌打ちすると、自分でしごきはじめた。どうしよう、くわえなおした方がいいのかな。みちかずのもう片方の手はおれのピアスを耳たぶごとつまんで引っ張った。
「とれるとれる、嘘っ、悪かったって」
返事はやばい痛みだった。耳が裂けてしまったかと思った。みちかずの指は器用におれのピアスの穴を広げようとしていた。
「名前を呼ぶんじゃねえよ」
「ごめっ、いっつぅ……!」
なんでおれにさせずに自分でするんだろう。やっぱりおれがやっても気持ちよくないのかな。みちかずがピアス穴を捻るから、全く頭を動かせない。
「出すからじっとしてろ」
「出すならおれが飲むけど……?」
「ここにぶっかけてやるよ」
先端が耳の穴に当たる。ものすごいゾクゾクした。
「でも、このあと授業あるしさ、臭いが……」
「知らね、勝手にピアスつけてきた罰」
生暖かいそれが耳のふちをなぞる。窪みをこする。そんなところを使ってくれるのはみちかずしかいないだろう。幸せで下腹部がぐるぐるする。
みちかずが短く呻く。全身が耳になって、出されたものを受け止めた。今、片側を包む静かさはみちかずの愛なんだと実感する。
「あつぅ……へへっ、みちかず、どうだった?」
みちかずはもう個室のドアを開けようとしていた。そのまま手洗い場の鏡で髪を整えている。
「待って、おれどうすればいい?」
「洗ってからくれば。臭いまんま来るんじゃねえよ」
おれはまだ温かいそれを手でぬぐって、蛇口の水を髪に浴びせる。さらさらと冷たかった。みちかずのなごりを残しておきたいけど確かに臭いし、このまま教室入ったらぶん殴られるだろう。いや、もしかすると話しかけさせてくれないかもしれない。無視されるのが一番嫌だ。自分だと臭いかどうか分からない。でも肩がびしょびしょになるくらい洗ったし、もう大丈夫だろう。
教室に戻ると、みちかずが机に座っていた。おれのじゃないことに嫉妬する。おれとみちかずの席は離れているんだからしょうがない。こっちを見てくれないかな。でも、みちかずの前ではどんなに祈ってもムダだ。だから。
血の滲んだピアス穴が見えるように髪を掛ける。そこに輝く小さな青い石を見せつけた。みちかずが掴みかかってくるあの幸福を、すでに感じ始めていた。